素直になれないふたり
 夜は、ラジオをつけたまま寝る習慣があるのだが、その時に、杏里の“D.J. I LOVE YOU”が流れてきた。
 まるで、私とジローのことのようだと思い、急に切なくなった。
 もし、また会ったとしても、あんな風に、まるで中学生のようなピュアななど、もうできるはずもないとわかっているのに、秋という季節が人恋しくさせたのだろうか。
 ジローの店に行ってみようと思い立った。
 H駅は、期せずして私のアパートから近いというのもある。

 なぜ、そうしたのかはわからないが、いつも以上に派手な服と濃いメイクで、ジローの店のドアを開けた。
「いらっしゃいま⋯⋯トーコ!」
 ジローは、かなり驚いた様子だった。
 私は、どういう態度で接していいのかわからず、
「あの時、私からはお金とらないって言ったよね?」
 ジローの目の前のカウンター席で、偉そうに脚を組んで座り、タバコをふかしながら言った。
< 34 / 57 >

この作品をシェア

pagetop