素直になれないふたり
素直になれるものならば
 ジローとの同居生活も、最初はどうしていいものかと思ったが、次第に心地よくなっていった。
 19の頃のようなピュアな関係でもなく、相変わらず互いに言いたい放題ではあるものの、何かが変わり始めているような気もする。

 時折、この6年でまともに話したことのない、互いに秘めていた過去や、誰にも言えない思いなどを語り合ったりもするようになった。
「昔も話したかもしれないけど、俺の実家は貧乏だった。だから、早く自立したくて、高等専修学校で調理師免許を取得したんだ」
 思えば、あの夏の時点で、貧乏なのに医学部?と気づかなかった私も鈍かった。
「あの頃、トーコがCAであることに気後れして⋯⋯CAは嘘でも、名門大学に通ってたことは事実だったし、なんだかいつもコンプレックスを感じてたよ」
 ふと、そんな弱気なことを言われた。
「私、劣等生だった上に、仕事もうまくいかなくて崖っぷちだけどね」
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