素直になれないふたり
 嫌だなんて、全く思っていない。
「ありがと。ま、ジローに誰かいい人が見つかる前には出ていけるようにするけどね」
「そんな人は見つからないから心配するな。それより、安全第一で生活してほしい」
 なんだかんだで、やはり今でもジローは優しい。
 しかし、それは何故だろう?
 昔も、ジローに好きだとハッキリ言われたことはない。仮に、好意を持っていてくれたとしても、かつてジローが好きだった私は、偽りの私であって、あるがままの私を好きになってくれたとは、到底思えない。
 一方、私はと言うと、一目惚れのようなものだったし、ジローが医学生でなければとさえ思っていた。
 もし、もっと違う出会い方をしていたら⋯⋯などと思ってしまう。
 そういえば、あの夏にジローも同じことを言っていた。
 あれは、ジローが医学生だと嘘をついていた罪悪感だったのだろうけれど、あの時点ではまだ、私の正体は知られていなかった。
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