素直になれないふたり
 以前、話に聞いていた、子供の頃のジローの思い出の場所を、あちこち見て歩いていると、その当時の姿が見えるようだ。
「帰りの車、私が運転するわ」
「サンキュ。でも、疲れたらすぐに言ってくれよ」

 長年の想いが通じ合ってから、もう誰かに狙われるような危険はないにも関わらず、私たちは同居を続けていた。
「アパート、引き払ったら?」
 ある日、ジローが言った。
「でも、私の荷物、ジローの部屋に入りきらないんじゃないかな」
「家を増築リフォームしようと思ってるんだ。二人で住むのに十分な⋯⋯いや、将来、もっと増えてもいいように」
 シャイなジローらしいプロポーズだった。
 断る理由など、もう何があるというのか。



 東京へと車を走らせていると、
「トーコの運転する姿って、妙に色っぽいな。その脚線美とか、誕生日プレゼントのピアスが揺れるところとか、真剣な横顔も全部」
 嬉しそうな声でジローが言う。
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