フェルナンドの薔薇は王弟殿下の愛で輝く~政略結婚で人族に嫁いだ魔族令嬢は、王弟殿下の優しさで愛を知る~
「身体を冷やすのは良くないからな」
「ありがとうございます……ですが、上着は結構です」
「はははっ、そういわずに受け取ってくれ」

 大きな口を開けて笑ったエドワード様は部屋へ戻ると、デイジーを呼んでお茶を淹れるよう指示を出した。

「私は執務に戻るとしよう。夕食は部屋に運ばせる。今夜はゆっくり休むといい」
「お気遣い、ありがとうございます」

 ドレスの裾を摘まみ上げ、淑女らしく礼をすれば、エドワード様はそっと私の頬に手を添えた。

「リリアナ、まだ慣れないだろうが……私たちは夫婦になるのだ。その、もう少し……君と仲を深めたいと思っている」

 頬を撫でる温かな指先に、心が少しだけ震えた。
 これほど優しく触れられたのは、いつ以来だろう。幼い頃、私を抱いた母の手かしら。それとも……脳裏に、夢の中で私を導く影がちらついた。

「……善処いたします」
「ありがとう。では、また明日」

 頬を撫でていた手が、そっと髪を撫でた後、エドワード様は静かに(きびす)を返した。

 扉が静かに閉ざされるまで、私は自分の頬にそっと触れながら、部屋を去る大きな背中を見つめ続けた。
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