フェルナンドの薔薇は王弟殿下の愛で輝く~政略結婚で人族に嫁いだ魔族令嬢は、王弟殿下の優しさで愛を知る~
 笛の音が優しく空気を震わせ、太鼓の音が胸に響いた。
 メロディに合わせ、物語を伝えるのは吟遊詩人だろうか。

 物語は佳境だった。歌声がパサージュに響き渡る。

 魔女に囚われた姫が王子に救われ、笑顔を取り戻す場面。大人だけでなく、子どもも夢中になって聞き入っている。

「君の笑顔が僕の光だ」と王子の歌声に、観客たちから歓声が上がった。

 優しい歌声が、胸に響く。
 エドワードの手を握りしめ、私も歌に聞き入っていた。

 拍手が沸き上がった。その中で、ひとりの男が帽子を脱いで挨拶をした。すると、誰かが小銭を投げ、男は器用に帽子を翻してそれをキャッチした。

 そうか。彼らはこうして、日銭を稼ぎながら旅をしているのね。

 なにもかもが初めてだわ。
 デズモンドで、音楽は兵士を鼓舞するものであり、死者を送るものだ。こんな、人々を笑顔にするものだなんて……

「……すごいわ」
「ほら、リリアナ」

 私の手に、小さな銀貨が握らされた。
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