フェルナンドの薔薇は王弟殿下の愛で輝く~政略結婚で人族に嫁いだ魔族令嬢は、王弟殿下の優しさで愛を知る~
 魔王様とデズモンドを思うと胸が苦しくなる。
 あの中で、凛と輝く薔薇であることを望まれた私は、こんなに脆かったのかしら。

 フェルナンドの薔薇と呼ばれた日が、果てしなく遠く感じる。

「リリアナ?」
「魔族は……戦うために生まれ、魔王様に仕えることを喜びとしています」

 私もお役目を果たすことを誓い、成人の日を迎えた。

「なのに、私は……この平和な街を美しいと、思ってしまった」

 デズモンドにはない平和、そこで笑いあう人々。

 なんて穏やかな景色だろう。こんなにも輝いた世界があるなんて、知らなかった。でもそれは、心の中でずっと願っていたことで……

 夢の中、私の手を引く人影を思い出す。

 あの人は私を輝く世界へと導こうとしていたのかもしれない。それは、私の心深いところにあった願望なのかも。
 でも、魔王様に仕える貴族として、それは許されないのように思える。
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