フェルナンドの薔薇は王弟殿下の愛で輝く~政略結婚で人族に嫁いだ魔族令嬢は、王弟殿下の優しさで愛を知る~
 ここには、笑顔が溢れているのね。

「素敵な都ですね、リリアナ様!」
「……そうね。でも、平和すぎて落ち着かないわ」

 目を輝かせるデイジーの横で、私は小さく息をついた。

 夢にまで見た、魔物に怯えない光景だというのに、居心地が悪いと思ってしまう私は、やはり魔族なのね。
 
 これからここで暮らすのかと思うと、不安がよぎる。

「リリアナ様……長旅で、疲れていらっしゃるのですよ」
「そうね。馬車に揺られて、お尻も疲れたわ」
「お城につきましたら、デイジー特性の香油でマッサージして差し上げますね!」

 デイジーの気遣いが、荒んだ私の心を支えてくれる。

 柔らかな手を握りしめ、小さく「ありがとう」といえば、彼女は嬉しそうに微笑んでくれた。

 辿り着いた王城は華やかな花木に覆われ、キラキラと輝くようだった。まるで、絵本に出てくる幸せなお姫様が住むお城だわ。
 蹄の音が石畳に響く。

 馬車の窓から外を眺め、絵本の中に迷い込んだのではないか、そんなことを思いながら手を握りしめた。
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