フェルナンドの薔薇は王弟殿下の愛で輝く~政略結婚で人族に嫁いだ魔族令嬢は、王弟殿下の優しさで愛を知る~
「リリアナ、疲れたかい?」
「いいえ、大丈夫です……」

 黙っていた私を心配したのかしら。
 気遣うエドワード様に微笑み返しながら、ほんの少しだけ心の中で、誰のせいだと思ってるのと恨み言をいってみた。

 気持ちを落ち着けようと、馬車の窓から見えるアルヴェリオンの美しい山々を眺めてみた。
 だけど、どういうわけだろう。夏の陽射しが燦燦と降り注ぐ深緑が、少しだけ重く見えた。

 話ってなんなのかしら。
 城や別邸では話せないことよね。ということはもしかして……考えを巡らせると、脳裏に「城に巣くう悪魔」という言葉が浮かんだ。

「……悪魔」

 ぽつり呟いたとき、窓の向こうに連なる山の麓が見えてきた。

 不可侵の森グリムオース。
 デズモンドとアルヴェリオン、先代の両国王が和平条約を結び、不可侵を象徴する石碑を置いたとされる森だわ。森には魔法がかけられていて、悪しき心の持ち主が踏み入ると悪魔が現れ、煉獄に送られると伝わる。

 近づく森に不安を抱いたのは、私だけではなかった。
 同行するデイジーも手を握りしめて窓の外を見ていた。その顔は真っ青だった。
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