寡黙な消防士は秘密の娘ごと、復讐を終えた妻を溺愛する
「まさか……」

 脳裏に過った答えを認めたくなくて、それを見ないふりをし続ける選択肢もあった。
 このまま彼女のことを忘れ、希美ちゃんのいない人生を歩むのが一番楽になれる方法だとわかっていた。
 それでも……。
 俺は、あの子の望む通りに生きていくと決めた。

『大切な人をある日突然失った。私と同じ苦しみを味わえばいい』

 彼女がそんなふうに、俺に呪いをかけているような気がしたから……。

 ――それから俺は、各地の消防署を転々とした。
 彼女と過ごした地でずっとあの子を待ち続けたところで、希美ちゃんは戻ってこない。
 結月家のことを思い出してつらいのならば、住み慣れた地を離れて最愛の人を探そうと決意したのだ。

 ――その思惑が実を結んだのは、それから6年後のことだった。

「まま! きょう、保育園でね!」

 消防署から自宅に向かって歩いている時のことだった。
 近隣の大型ショッピングモールから大きな荷物を手にして出てきた母親と、元気な声を上げて話す幼子の姿を見た。
 最初は子どものほうを見て、元気いっぱいだなと微笑ましい気持ちでいっぱいになっていたのだが……。
 その後手を繋いで歩く女性の声を聞いて思わず驚愕する。
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