寡黙な消防士は秘密の娘ごと、復讐を終えた妻を溺愛する
「どうして……!」

 何も言わずに姿を消すなんてあんまりだ。
 脳裏に浮かぶ希美ちゃんに怒りをぶつけながら、俺は拳を握りしめる。
 ただの消防士にできることなど、高が知れている。
 すぐに万策尽きて、己の無力さを嘆くことしかできなかった。
 こんな状態では仕事に集中できるはずもなく、新しい隊長から強制的に仕事を休むように命じられた。
 俺は暇さえあれば彼女を探し回り、それを見かねた上司の奥さんに止められてしまう。

「もういいのよ。諦めましょう」

 彼女は警察に行方不明届けを提出すると、あとは彼らに任せてほしいと告げた。

 ――俺は希美ちゃんと、将来を誓い合った仲だ。
 この手で彼女を見つけ出さなければ意味がないと内心怒りに打ち震えていたが、そんなことを口にしたところで隊長の奥さんが困惑するだけだろう。
 最悪の場合は夏希に異常な執着愛を向ける男だと引かれ、別れてほしいと言われかねない。
 それを恐れ、俺は無言で頭を下げて女性と別れた。

 ――希美ちゃんは、どうして相談なしに姿を消したんだ? 

 俺は何度も考えて、ある答えに辿り着く。
 隊長が命を落とした日だって、なんの前触れもなかったことを……。
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