寡黙な消防士は秘密の娘ごと、復讐を終えた妻を溺愛する
「こら、夏希……」
「やー! おじしゃんと一緒にいるー!」

 結局夏希は片平さんにべったりで、お風呂に入れるのも一苦労だった。
 2人の険悪な雰囲気を感じ取った彼女は、自分が彼から手を離したら新しいパパ候補がどこかにいなくなってしまうと考えたのだろう。
 眠っている時でさえも器用に胸元を掴んで離さないのだから、どうしようもない。
 無理やり引き離す気にもなれず、こうして気まずい時間を彼と過ごす羽目になった。

「もう、いいだろ。全部、話してくれ」

 大嫌いな男に促されて、言う通りにするほうがおかしいのだ。
 こうなる原因を作った片平さんに、誰にも打ち明けたことのない秘密を曝け出すつもりなどなかった。
 なのに――。

「希美ちゃんは俺を、憎んでいるからな。やっぱり、言えないか……」

 彼はあっさりと隠していた気持ちを暴き、どんよりとした空気を醸し出す。
 私は何を言われているのかさっぱり理解できなくて、必死にその言葉を否定した。
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