寡黙な消防士は秘密の娘ごと、復讐を終えた妻を溺愛する
「あなたを庇わなければ、お父さんは生きていた!」
「すまない」
「なんで、生き残ったの!?」
「君と夫婦になるためだ」
「何事もなく火災現場から、2人で生きて帰って来てくれたら……! 私はこんな思いをいだかずに済んだのに……!」
「あれは、俺が未熟だったせいで起きた事故だった。もう、過ちを繰り返すつもりはない」

 大きな声でがなり立てたところで、お父さんは返ってこない。
 眠っている夏希を起こしてしまうとわかっていたのに――深い悲しみを己の胸のうちにしまい込み続けられず、思わず吐露してしまった。

 ――こんなヒステリックに叫ぶ女なんて、恋愛対象として見られない。
 そう言われてもおかしくないような、酷い言葉をたくさん口にした。
 なのに――。

「約束しただろう。責任を取ると。どんな罵倒も、甘んじて受け止める」
「なんで……? こんな醜い感情をいだく私は、片平さんのそばにいる資格はない。だから、遠く離れた場所で、一生消えない傷を刻み込んでやるって決めたのに……!」
「俺の脳裏には、いつだって君の姿が焼きついて離れない」
「それは、私の復讐が成功したからで――」
「いや、違う。あの事故が起きる前からずっと、俺は希美ちゃんのことだけを考えて生きている」

 片平さんは何年経っても私に優しく、何があっても動じなかった。
 今でもなお私を愛し、あの時の約束を果たそうとしてくれているのだ。
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