寡黙な消防士は秘密の娘ごと、復讐を終えた妻を溺愛する
「許さないから。このまま終わりにするなんて。あなたは生きて、償うの。お父さんが守った命を、粗末に扱わないで」

 片平さんは私の言葉に酷く感動したようで、涙でぐしゃぐしゃな顔のまま愛を囁いた。

「俺も、希美ちゃんを愛している。どうか、一生を賭けて償わせてほしい」

 あの人はこちらの思惑通り、交際を了承した。
 なんであんな奴と付き合わなきゃいけないんだって、口にはできない怒りの炎が心の奥底で燻っていた。
 それでも私は、誰にも打ち明けられぬ秘密をかかえたまま片平さんに身体を許した。
 ある日突然愛する人がいなくなる。
 そんな恐怖と自分と同じ痛みを実感して初めて、私の復讐は完遂するのだ。
 だから私は今日も嘘の愛を囁き、肌を重ねる。
 あの男の絶望を引き出すために――。
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