そのストーカー行為、お断りいたします!
 リズリットにぐいぐいと押されて、ハウィンツは納得行かないような表情を浮かべながらも、リズリットにその場から動かないように! と言葉を残してローズマリーの元へと向かった。

 姉の元へ迎えに行く兄の背中を見つめながら、リズリットは先程から自分達兄妹に集まっていた沢山の視線を振り切るように壁際へと戻って行った。
 美しく、整った容姿を持った兄と姉に、昔はリズリットも誇らしかった。

 けれど、成長するに連れて子供の時にはそこまで気にならなかった周囲の声にリズリットは大人になるに連れ心無い言葉に晒され続けて来たのだ。

 容姿も普通、頭脳も普通、その時点で周囲から同情されるような視線を受けていたと言うのに、リズリットはこの年になるまで未だ精霊の祝福を得ていない。
 そうすると、周囲の視線はもっと厳しく、残酷な言葉を伴って何度も何度もリズリットの柔い心を鋭い刃物のような言葉や態度でズタズタに傷付けて来た。

「お兄様やお姉様みたいに美しくもない、精霊に祝福を貰えていない……それが、本当にそんなにも悪い事なの……?」

 リズリットは壁際で俯きながらついついぽつりと零してしまう。

 ──疲れた。

 人の悪意に晒され続けて、リズリットは疲弊していたのだ。
 今夜の夜会も、リズリットの為に兄のハウィンツも、姉のローズマリーもリズリットに付き合うような形で夜会に同行してくれた。

 十七と言う結婚適齢期の妹に、未だに婚約者の一人も居ない事をリズリット本人よりも気にして、リズリットの婚約者探しのような夜会に同行してくれたのだ。

「お兄様にも、お姉様にも申し訳ないけれど……私はきっと結婚なんて出来ないわ」

 リズリットは自分のドレスをきゅう、と力強く握りしめるとジンジンと痛むつま先に体重を掛けないように背中をそっと壁に凭れさせる。
 壁に背を預け、俯いていたからリズリットは自分に近付く気配を感じ取る事が出来なかった。
 だから、自分のつま先の向こうに影が出来たのが視界に入り、リズリットが正面を向こうとした時にパシャン! と顔に衝撃が走り、リズリットは体をビクリ、と震わせて硬直した。

「──あら! 嫌だ、ごめんなさい。床に躓いてしまってグラスの中身が零れてしまったわ!」
「まあ、本当に。大変ですわ! お顔が果実水で濡れてしまっているわ」
「髪の毛も張り付いてしまって、まるで濡れ鼠のように──……っふふっ」

 リズリットは自分に掛けられた言葉が理解出来ずに瞳を見開き、ポカンとしてしまう。

 床に躓いた?

 こんなにも綺麗に磨かれた大理石が?躓いてしまうような欠けてしまった部分などあるのだろうか。
< 4 / 9 >

この作品をシェア

pagetop