そのストーカー行為、お断りいたします!
二話
「う……っ、悔しい……っ、」
何も言い返せない自分も、他人にそこまで卑下される自分も、情けなくて悔しくてしょうがなくなる。
リズリットは、ぼろぼろと流れ出る涙を乱暴に自分の手の甲で拭うと目の下を真っ赤にさせながら泣き声が漏れ出てしまうのを、何とか唇を噛み締めて抑える。
だが、漏れ出る泣き声を無理矢理押さえ込んでいるせいか、自分の胸がひくひくと何度も痙攣するように跳ねてしまい抑えようとすればする程その痙攣は悪化して来てしまい、リズリットは軽いパニックに陥る。
「──泣いていた……?」
リズリットが駆け込んだ部屋の少し離れた場所で、男は唖然としたように呟くと、女性が消えた扉の奥をじっと凝視する。
男はこの国の騎士達が身に纏う団服をキッチリと着用し、寸分の乱れも無い団服は男のキッチリとした真面目な性格をそのまま表すかのような姿で、藤色の瞳が困惑気味に揺れている。
──誰か身内を呼んだ方がいいだろうか。
ちらり、と見えた女性──まだ、成人したてのような可愛らしい顔立ちの令嬢はその瞳を涙に濡らし、恐らく髪の毛が濡れそぼっていた事から何かホールで問題が起きたのだろう、と言う事が分かった。
果実水でも被ってしまったのか、令嬢の顔に張り付く髪の毛から滴る液体は薄らと紫色で、葡萄が豊作だった為に今回の夜会では葡萄の果実水を出していた事を知っているその男は、果実水を頭から被ってしまったのだろう、とあたりをつける。
身内を呼ぼうか、と考えたがチラリと見えた横顔ではどの家の者かも分からず、男が途方に暮れていると、背後からこの廊下に向かって駆けてくる足音が聞こえて来て男は反射的に素早く振り向いた。