そのストーカー行為、お断りいたします!

「──あれ? ディオン? ディオンが何故ここにいるんだ?」
「──……ハウィンツか。いや、今日は衛兵の人手が足りなくてな。俺も警備に出てはいるんだが……」
「騎士団長が警備か? 何でそんな事になってるんだ……」
「……衛兵の多くが集団で体調を崩したみたいだ。国が認可した夜会だから俺達の騎士団に臨時で警護任務が下った」
「はー……。大変だな。だからお前はこんな所に居たのか、フロア警備なんかになったら令嬢達の視線を全部攫ってしまうもんな?」

 そんな事は無い、と言えないディオンはハウィンツの言葉にぐっ、と唇を噤むと「で?」と言葉を続ける。

「急いでいたみたいだが、ハウィンツはどうしてここに?」
「──ああっ! そうだ、そうだったんだ……!」

 ディオンの言葉に、ハウィンツははっと瞳を見開くと慌てて言葉を続けた。

「ここに、可愛らしい令嬢が来なかったか!? 灰色の髪の毛を愛らしく編み上げて、深碧の宝石のようなキラキラとした瞳の女の子! 俺の妹なんだよ、ここに来なかった!?」
「──可愛らしくて愛くるしい女性ならば来た。ハウィンツの言う通りの特徴だから、その女性は妹君だろう。あそこの部屋に入ったぞ」
「本当か!? ありがとう!」

 ディオンの言葉にハウィンツはパっと表情を輝かせると直ぐにディオンに示されたそちらの方向へと駆けて行く。
 妹の事で頭が一杯になっていたのだろう。
 普段であれば、ハウィンツは聞き逃さなかっただろう。聞き流さなかっただろう。

 どんなに美しい令嬢や可愛らしい女性が相手でも、ぴくりとも表情を動かさず淡々と対応をするディオンの口からリズリットに対して「可愛らしい」「愛くるしい」と言う言葉が零れ落ちた事にハウィンツは少しも違和感を感じなかった。

 それどころでは無かったからだ。

 だが、一度でも背後を振り向き、ディオンの表情を見ればハウィンツはぎょっと瞳を見開いていただろう。
 女性に興味が無く、感情を動かす事の無い、仕事にしか興味が無かった男が女性の姿を思い出し、ぽうっと惚けたように頬を薄らと染めている姿を見れば、ハウィンツは可愛い妹に迫る危機に逸早く対応していたかもしれない。

 だが、ハウィンツはリズリットが駆け込んだ、と言う部屋の扉の前に駆け寄り、リズリットしか目に入っていない為、ディオンの異変には気付かない。
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