恋愛未経験な恋愛小説家の私を、何故か担当さんが溺愛してきます!?
紅茶を氷上さんの前に置くと、「わざわざありがとうございます」とこれまた爽やかすぎる笑顔が返ってくる。
いいよ、いいよ、いちいち私なんかにキラキラと笑顔を振りまかんで。日陰者は多分消えてしまう……。
それだけ氷上さんの笑顔は凶悪である。普通の言葉に言い換えるなら、素敵である。
氷上さんは、「こちらよろしければ」と紙袋を私に差し出す。
その紙袋のロゴは私の大好きな焼き菓子屋さんのものであった。
「あ、これ……!」
「恵から、琴葉先生はこちらのマドレーヌがお好きだと聞きまして」
「あ、ありがとうございます……!う、嬉しいですっ」
「よかった」
私の返答に何故かほっとしたように肩の力を抜く氷上さん。
あれ、もしかして、氷上さんも緊張してる……?
氷上さんは胸ポケットから名刺入れを取り出すと、その中の一枚をこちらに向けた。
「改めまして、本日より琴葉先生を担当させていただきます、氷上です」
「あ、ご、ご丁寧にありがとうございます……」
名刺を受け取ると、そこにはちゃんとブルーベリー文庫編集長と書かれていた。
本当に編集長だ……。疑っていたわけではないけれど、こうして名刺にもはっきりと書かれていると改めてびっくりする。
「それで、琴葉先生」
「はいっ!」
自分がしごでき恋愛小説家設定であることも忘れ、安定のコミュ障陰キャな私の返事をしてしまい、はっとしたが時すでに遅し。氷上さんは爽やかな笑みをその端正な顔に浮かべる。
「そんなに緊張なさらないでください。編集長という肩書ではありますが、恵や他の編集となんら変わりません。寧ろ、彼女らの方が優秀かもしれません」
「え、そんなこと……」
「恵から琴葉先生との流れは引き継いでおりますが、なにかと確認が多くなってしまったらすみません」
「い、いえ……っ」
男性だし苦手そうなタイプだと見た目で判断していたけれど、思ったよりも話しやすく、気さくな雰囲気を感じる。
頑張れば、まぁお喋り、できそうかも……。
変わらずがちがちに緊張しまくりの私に、氷上さんはゆっくりと話し出す。