恋愛未経験な恋愛小説家の私を、何故か担当さんが溺愛してきます!?
「そんな美琴さんだから書ける小説もあったはずです。もちろん恋愛を知っていて感じる瑞々しい感情も大事だと思いますが、知らないからこそ書ける感情もあるはずです」
「そう、なのでしょうか……。この歳にもなって彼氏の一人もいたことがないなんて恥ずかしくないでしょうか……」
こんな幼稚なことを訊いて、恥ずかしい奴だと思われていないだろうか。いい大人が恋愛経験もなく、それに少しの恐怖心を抱いているなんて、恥ずかしいと思われているんじゃないだろうか。
そう思うと、俯いた顔を上げることができなかった。
氷上さんに嫌われたくないな、何故かそう思ってしまった。
「美琴さん」
氷上さんが私の手を優しく握る。
驚いた私はぱっと顔を上げてしまった。
「恥ずかしいことなんてない。俺は今まで美琴さんが誰のものにもなったことがないと聞いて、心底ほっとしているくらいだ」
「え?」
「俺が美琴さんに、恋愛を教えます」
氷上さんの真っ直ぐな瞳が、私を真剣に見つめていた。
今日一日、氷上さんと過ごしてよくわかった。
この人は実直で優しくて、温かな人なのだと。
それは打ち合わせのときにだってわかってはいたけれど、それだけでなく私を本当に大切にしてくれているみたいに、私が本当の彼女であるかのように大切に扱ってくれている。
氷上さんが私を好きって、本当なの……?
本当だったらいい。そう思ってしまうくらいには、きっと私も氷上さんに惹かれてしまっているのだ。
私の口から、ぽろっと言葉が漏れる。
「……私に……恋愛を教えてほしいです……」
それまで優しかった氷上さんの瞳が、きらりと鋭く光ったような気がした。