恋愛未経験な恋愛小説家の私を、何故か担当さんが溺愛してきます!?
そうして何分、何時間が経ったのかわからないが、私はぴたっと動きを止めた。
「できた……!」
デートシーンで行き詰ったり、今後の二人の気持ちについて腑に落ちなかったシーンが、やっと上手く書けた気がした。
きっとこれも、今日氷上さんとデートに行ったおかげだ。
そう思ってから、はたと思い当る。
あれ?氷上さんは……?
「ディナーを終えて、一緒に私の家に帰ってきてから、それから……」
思い出して顔を赤くし、しかしそのあと自分でもわかるくらい血の気が引いていった気がする。
私は慌てて仕事部屋を飛び出す。
するとダイニングテーブルに氷上さんがのんびりと座って、文庫本を広げていた。
私に気が付くと、氷上さんは穏やかに顔を上げた。
「あ、美琴さん」
「ひ、ひひひ氷上さんっ!すすすみませんっっっ!!!」
私は思い切り頭を下げる。
しかし氷上さんは全く気にしていないとでも言うかのように、いつもの爽やかな笑顔を浮かべた。
「気にしないで。小説のアイディアが浮かんだんでしょう?」
「え、あ、はい……」
私はちらっと壁掛け時計を見上げる。
帰宅して、三時間が経過していた。
私はまた大きく頭を下げる。
「本当にっ!すみませんっ!!」
氷上さんは目をぱちくりさせて、それから顔の前で手を振った。
「いや、本当に気にしないで。俺だって琴葉先生の仕事の邪魔はしたくないですから」
「で、でも……」
「それとも、先程の続きをしますか?」
氷上さんに問われ、私は先程のベッドでのやり取りを思い出す。
かあっと真っ赤になった私に、氷上さんは口元を寄せる。
「まぁ、それはまたいつか」
ばっと耳元に手を当て私が後ろに飛び退くと、氷上さんはにっと口角を上げた。
「今日はもう遅いので、俺はこれで失礼します。では琴葉先生、執筆頑張ってください」
そう言って氷上さんは、いつもの打ち合わせの帰りのように、何事もなかったかのように爽やかに玄関を出て行った。
氷上さんがいなくなった部屋で、時計の針の音と、私の心臓のばくばくとした音がやけに響いて聞こえた。
落ち着くことなんてできずに、私はまた氷上さんとのキスを思い出して……。
「こんな状態で冷静に執筆なんてできるわけないっ……!!」
そのまま布団にダイブして布団に潜った。
身体も心も疲れているはずなのに、その日は全く眠れなかった。