恋愛未経験な恋愛小説家の私を、何故か担当さんが溺愛してきます!?

 そして数日後。
 新作の恋愛小説はほぼ形となり、初稿を終える間近となっていた。
 明日は久しぶりに氷上さんと打ち合わせの予定がある。できれば初稿を仕上げておきたい。

 そうは思いつつも、私は珍しく外に出た。

 外出の理由は、美味しい紅茶とお菓子を用意しておくためだ。
 いつも手土産を用意してもらって申し訳なく思っていたし、貰い物の紅茶の茶葉ももう残り少なくなっていた。
 せっかくなので、明日の打ち合わせ用に用意しておこうと思ったのだ。
 紅茶を選びながら、私はその品質表示と睨めっこする。

「どれが美味しいとか、お菓子に合うとかよくわからないな……」

 もう少し勉強しておくべきだったと反省しながら、私は紅茶専門店の店員さんおすすめの商品を購入した。ついでに合うお菓子も、店員さんおすすめのフィナンシェにした。
 紅茶の勉強もしておいて損はないかも、お話の中でなにかに使えるかもだし。
 目の前を親子三人が通り過ぎて行く。お父さんお母さんと手を繋ぐ女の子は、すごく幸せそうだった。

 ふと視線を遠くに移すと、道路を挟んで反対側の歩道にもう見慣れてしまった横顔を見つけた。
 氷上さんだ……!
 私の胸はそれだけのことでドキドキと早く動き出す。
 そういえば以前もこの辺で仕事があって、と急に寄ってくれたことがあった。今日ももしかしたらそうなのかもしれない。
 急いでいるかな……少し声を掛けてみようか……。
 悩んでいると、氷上さんは誰かに向かって手を挙げた。
 そうして前からとても綺麗な女性が駆け寄ってきて、そして、氷上さんに抱き着いた。

「!?!?!?」

 女性は氷上さんにこれでもかと満面の笑みを浮かべている。そんな可愛らしい笑顔を向けられた氷上さんもまた、いつものように爽やかな笑顔を浮かべていた。
 二人が連れ立って大通りを歩き去って行く。
 私はその後ろ姿を見送ることしかできなかった。


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