恋愛未経験な恋愛小説家の私を、何故か担当さんが溺愛してきます!?
「アイディアが一ミリも出てない、ってことで合ってます?」
「あってます……」
私の言葉に嫌な顔一つせず、恵さんはふむ、と頷く。
「そうですねぇ……。今年は琴葉先生デビュー10周年の年でもありますし、少し大きなタイトルやシリーズを作っていきたいところですよね」
「えっ、あ……はい……」
「消防士、パイロット、弁護士に医者……。この辺の職業についているヒーローはもう一通りやりましたし……そうですねぇ……」
恵さんはペンで自身の顎をちょんちょんとつつきながら、思案してくれている。
そんなふうに真剣に考えてくれている恵さんにはすごく悪いと思いつつも、私はおずおずと口を開いた。
「あ、あの……、次回作、恋愛小説じゃないといけないのでしょうか……」
「え?」
「あの、私、多分、恋愛小説って向いていない気がしていて……。コメディチックなものとか、青春小説の方がいいんじゃないかな、と……」
私のもごもごとした意見に、恵さんが立ち上がる。
「琴葉先生!何を仰っているんですかっ!」
「ひえっ……」
「先生の恋愛小説、めちゃめちゃ面白いんですよ?ファンもたくさんついていて、出版社としてもこれからどんどん盛り上げたい気持ちでいっぱいで!私は是非!琴葉先生には恋愛小説を書いていただきたいです!それに何より私が読みたいです!琴葉先生の描く恋愛小説はピュアで繊細でとっても胸キュンなんです!読みたい!是非読みたい!!」
恵さんの勢いに押された私は、思わず「が、頑張ってみます……」と口にしてしまっていた。
恵さんははっとしたようにゆっくりと腰を下ろす。
「でもどうしても筆が進まない、と言うのなら、その時また考えてみましょう。とりあえず今日は私の方で少し案を持ってきていて……」
さすがしごでき恵さん。どうせ私が書けていないだろうからって、すでにアイディアを練ってきてくれていたようである。