恋愛未経験な恋愛小説家の私を、何故か担当さんが溺愛してきます!?
「……はい」
玄関扉をガチャリと開けると、そこにいたのは当然氷上さんで。
私の暗い表情を見た氷上さんは驚いたように目を丸くしていた。
「美琴さん、大丈夫ですか?ちゃんと休んでいますか?無理しすぎなんじゃ……」
爽やかフェイスに心配の色を滲ませた氷上さんは、心底心配していますと言ったように眉を下げる。
こんなに優しいのも、私の小説のため……?
そんなぶつけようもない黒い感情を胸にしまって、私は氷上さんを招き入れる。
「大丈夫ですよ、ちょっと根を詰めすぎてしまったのかもしれません。初稿まだ出来上がっていないのですが、途中までで良ければ読んでいただけますか?」
「はい、もちろん」
氷上さんは頷いてくれながらも、どことなくやはり心配そうな表情のままだった。
昨日買った紅茶に、一緒に買ったフィナンシェを添えて、氷上さんの目の前に静かに置く。
氷上さんは「ありがとうございます、いい香りですね」と笑う。
私も下手くそな笑顔をその顔に張り付けた。
「では早速、拝見させていただきます」と氷上さんはパソコンで私の初稿のデータをチェックし始める。
真剣な表情でパソコンに目を落とす氷上さんは、やっぱりかっこよかった。
数分後、氷上さんは顔を上げる。
「うん、すっごく素敵です!琴葉先生の作品の中でも一番にヒットすること間違いなしですよ!」
氷上さんは子供のように目を輝かせて私を見つめる。
「恋愛の心理描写がとってもいいです。繊細で主人公の胸の痛みが苦しいほどに感じられます」
嬉しそうに感想の言葉を紡ぐ氷上さんに、私は、ああ、今日は敬語なんだな。まぁ今日は打ち合わせだし、そもそもあれもただのリップサービスだったのだし。と小説には関係ないことばかりを考えてしまう。
そんな無言の私に、氷上さんは私の顔を覗き込むように見てくる。
「美琴さん、どうかしましたか?具合が悪い?」
「……いえ、大丈夫です……」
「そう、ですか?ええと、残すところは最後のシーンだけですね。二人が結ばれ、心も身体も結ばれてハッピーエンドという感じですが、どうですか?書けそうですか?」
氷上さんに尋ねられ、私はぐっと唇を噛む。