恋愛未経験な恋愛小説家の私を、何故か担当さんが溺愛してきます!?

「私はこの星屑出版を辞めるつもりでいました。父から戻るように言われていたからです。でも」

 そこで言葉を切って、氷上さんは私の頬を優しく撫でた。

「ちょうど前任の恵が産休に入ると聞き、琴葉先生の後任を探していると耳にしたんです。俺は琴葉先生の本に心を救われた。だからどうしても貴女と一緒に小説を作り上げたかった」

 すぐにでも帰ってくるよう、氷上さんはお父さんに言われていたそうだけれど、私を担当したくて無理を言ってこの星屑出版に残ったそうだ。

「琴葉先生のことは小説だけでしか知りませんでした。けれどきっと、心優しくて仕事熱心な人であろうことは、その文章からよく伝わってきました。それに直接お話するととても感情表現が豊かで可愛らしく、面白い方でもありました」

 氷上さんは私をじっと見つめる。

「いつの間にか私は、琴葉先生を、いや美琴さんを、好きになってしまっていました」

 照れくさそうな笑みを浮かべる氷上さんは、愛しいものを見るように優しく目を細めた。

「ちょっと強引でしたよね。美琴さんには、はっきり言った方が伝わると思ったのですが……」

 そう言って照れたように笑う氷上さんの耳は、ほんのり赤くなっているように見えた。

「うそ……」

 ぽろっと漏れた言葉を氷上さんは否定する。

「嘘なんかじゃありません。俺は、美琴さんのことが好きです。信じてくれないのなら、信じてくれるまで何度でも言います」

 真っ直ぐに私を見つめて、氷上さんは言う。その瞳は真剣そのものだった。
 私は氷上さんの目を見るのが恥ずかしくなって、思わず顔を俯かせる。
 そんな真っ直ぐな言葉が嘘だなんて疑えるはずもない。氷上さんは、私を好きなのだ。

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