呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 同じ言葉を甘やかにミランが言う。しかし、本当にどう答えて良いかも分からない。
 それに、こんなにじっと見据えられることも、この行動の意味も分かる今だからこそ、恥ずかしくて仕方ない。耐えきれずベルティーナが瞑目すると、彼はくすくすと笑いをこぼした。

「……何。キスされたいの?」

 まったく思いもよらぬ言葉だ。ベルティーナはすぐにかっと目を見開いた。

「なっ……何でそうなるのよ!」

 それも習わしの一つなのか。まったく理解できず、ベルティーナが真っ赤になってぷるぷると震えると、ミランはにやりと狡猾に笑んだ。

「だって、見つめ合った後に目を瞑られたらそういうもんじゃないの、普通? 人間でも共通じゃないのか、そこは」

 何だ、違うのか。と、ひどく残念そうに言われ、ベルティーナは半眼になる。
 しかし、また彼の新しい一面を見てしまった気がする。比較的単純な自分に対して、本当に彼がどういう人物なのか、ベルティーナはいまだ掴めていないように思った。

「……世間知らずな私に()かないでちょうだい。人間の場合なんて知ってるわけないじゃない。でも、貴方、私が貴方たちの習わしなんて知らないことは知ってるわよね?」

 呆れて言うと、ミランは大きなため息を一つこぼしつつ、ベルティーナの髪を撫でた。

「それでもベルは天性的な魔性だよな。堪らないほど良い匂いで俺をどこまでも誘惑する。それじゃあ〝取って食べてください〟って言ってるみたいに無防備すぎて」

 ──蜜月は朝も夜も、抱きしめたまま、ずっと離さない気でいるから覚えてろよ。
 なんてぼそぼそと付け添える。きっと彼は聞こえない程度に言ったのだろうが、ベルティーナはそれをしっかりと聞いてしまった。

 蜜月。朝も夜も抱きしめたまま……。

 想像できることは甘やかで淫靡なことしかない。海水に浸かったままの足元が冷たかったはずだった。だが、もうそれも感じられないほど、足の先まで熱く感じてしまうほど。羞恥が身に暴れ回り、ベルティーナは顔を真っ赤に染めて震え上がった。

「……貴方にとって私は子孫を残すだけの相手かしら?」

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