呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
完全な素足だ。羞恥は当然あるが、それでも裸足で地面を歩くなんて初めてで、新鮮に思えてしまった。
素足で踏みしめた砂の感覚は少しばかりこそばゆい。その感触はひんやりとしており、さらさらとしていて肌触りが良いと思った。
ミランの長靴の隣に靴を置き、ベルティーナは恐る恐る彼の方へ歩み始めた。
しかし、波は寄せては返すもので、どの頃合いでそちらに向かえば良いかも分からない。そう戸惑っていると……「ほら、おいで」と彼は手を差し出すものだから、ベルティーナはその手を取る。
すると、強い力で引き寄せられ、ベルティーナの頬は彼の胸に当たった。
途端に感じるのは、海水の冷たさで……。
「ひゃ……冷たっ!」
それに、波に動く砂が足元をくすぐるように撫でるので、こそばゆい。なんとも言えぬ感覚で、思わずミランの上衣を掴んでしまう。すると案の定、彼はくすくすと笑みをこぼした。
「わ、笑うことないじゃない! 私、海は初めてなのよ!」
やはり笑われるのは不服だ。ベルティーナはミランの上衣を掴んだまま下から睨み付けると、彼は優しく笑みながらも視線を下げた。
「俺の婚約者は、言葉だけじゃなくて反応まで可愛いなって思っただけだが」
きっぱりと、それも目を見てきちんと言われたことにベルティーナは硬直した。
二人きりのとき、相手をじっと見つめることは求愛と……。それをふと思い出したベルティーナは、自分の頬が焼けるように熱くなることに気づき、すぐに彼から視線を反らした。
「何で視線を反らすんだよ? 少し前まで人前だろうが俺のことじっと見てくれたのに」
「……な、何でって! それはそんな習わしを知らなかったからよ!」
本気で恥ずかしくて堪らなかった。知っておきながらこんなことを言うのは意地が悪いだろう。ベルティーナは慌ててすぐに顔を背けた。
「ベルは俺から求愛されるのそんなに嫌?」
甘やかに言われ、ぞっとしてしまった。
しかも、今は海辺に二人きり。自分は彼の上衣を掴んだまま。まだかつてないほどに距離が近すぎるのだ。
さすがに近すぎるだろう……。ベルティーナが彼の上衣から手を離し、一歩後退しようとした。だが、途端に腰に腕を回されてしまい、抱き寄せられたものだから、ベルティーナは驚いてはっと彼を見上げてしまった。
「嫌か?」