呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~

第24話 粉砂糖の指先、甘い紅潮

 ……昔から? 一人にはさせない? なぜそんな言葉が出てくるのだろう。しかし、思えば、初めて会ったとき、彼は「俺を覚えているか?」と言っただろう。

「ねえ……前にも貴方は私に〝覚えているか?〟なんて言ったけれど……私をどうして知っているの? 私は貴方に会ったことがあるの?」

 ベルティーナが彼を一瞥して()くと、ミランはすぐに頷いた。

「ああ、会ってるよ」
「でも、いつ……? 私はずっと庭園に幽閉されていたのよ?」

 思わず彼の顔をじっと見てしまう。だが、それでも視線を反らせないほど気になって仕方ない。何せ、それらしき記憶なんて微塵もないのだ。
 いや、彼が闇に姿を隠して塔の中で暮らす私のことを見ていたのかもしれないが……。

「……まあ、それは、いつかベルが思い出してくれたら嬉しい」

 ──あれを俺が言うのは、少しばかり抵抗があるもんだから、なんて付け添えて、彼はばつが悪そうに視線を反らし、浜辺へ向かって歩み始めた。

 浜辺に着き、脱いだままの靴の隣にミランは腰を下ろした。
 しかし、彼に続き水面から浜に上がったベルティーナは立ったまま。それを見かねたのか、ミランは自分の隣の地面を叩き「おいで」と言う。

「ドレスが汚れるわ」

 多分怒られはしないだろうが、気がかりである。それも、なかなか上質な布でできていると目に見えて分かるからこそ、抵抗を感じてしまうもので……。

「立ったままでも別に構わない」とベルティーナが言おうとした途端だった。
「……じゃあ、俺の膝に座るか?」

 ミランが真顔で言い出すものだから、ベルティーナは目を丸くして硬直した。

「ベルに触れられるのは俺としても嬉しいし、ドレスが汚れない。どう考えても、一石二鳥で両方が幸せな方法だろ?」

 本当に、どうすればこんな考えに行き着くのだろうか……。阿呆なのだろうか。
 そんな風に思いつつ、ベルティーナが目を細めたそのときだった。

 ミランは腰を少しばかり起こした。すると瞬く間に腰に手を回され、膝の裏に手を回される。そうして一瞬のうちに抱きかかえられたベルティーナは、悲鳴さえ出すのを忘れてぽっかりと口を開いた。

「ほい。じゃあ座るか」

 彼はのんびりと言うが、ベルティーナは目を白黒とさせた。

「ちょっと、どうして! 合意もしてないわよ!」
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