呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
「別にいやらしいことをするわけでもないし……膝に座るくらい困ったことでもないだろう?」
「それでも貴方、私の匂いが良いとか変なこと言うし! 貞操の危機を感じるわ!」

 ベルティーナが捲し立てるが、それもお構いなしにミランは座り、膝の上で暴れるベルティーナを押さえつけるように抱き寄せた。

「ほら。暴れて砂の上でも転がってみろ。ドレスのあちこちが汚れたら、侍女たちに誤解されるかもな? 支度中にハンナたちがそんなことを言ってただろ?」

 ──部屋が隣だから筒抜け。
 なんて、目を細めて言われ、ベルティーナは硬直した。

「聞いてたの……」
「ああ。でもベルの言葉を聞いて、俺って割と信用されてるなとは思ったが」
「分かったわ。大人しくする。貴方を信用しているから、だから本当に変なことだけはしないでちょうだい」

 彼を一瞥もせずにベルティーナが言うと、ミランは合意に頷いた。

 ***

 その後、ミランの膝の上でシュネーバルを食べた後、二人は城へ戻った。

 初めて食べたシュネーバルは、双子の猫侍女たちが言ったように、頬が落ちそうなほど甘美な味が口いっぱいに広がり、とても美味しく思えた。

 しかし、明かりもない海だったからこそ、自分のドレスの状態なんて気づきもしなかった。

 左右非対称に裁断された裾だ。片方は長いもので、彼の膝の上にいようが裾に砂が付着していたことから、「いったいどこで何をしていたのか」と、ハンナたちに怪しまれたのであった。

 だが、宣言通りにミランは特にはしたないことなどしてこなかった。

 強いて言うなら、シュネーバルにまぶされた粉砂糖が口元に付着していたらしく、指で拭われ、それを舐められた程度で……。
 それを見て、ベルティーナは少しばかり恥ずかしがったが、大袈裟なほどに反応するのはやめた。

 なぜかと言えば……大袈裟なほどに反応してしまうと、さらにちょっかいをかけてくるという性質を見抜いたからだ。
 しかし、こうして二人で出かけて、まだかつてないほどに会話をして、改めて知ったことだが、初めての印象とは大違いだったとベルティーナは思う。

 確かに、ややぶっきらぼうで何を考えているか分からない部分はあるものだが……その髄はとてつもなく素直に思えた。

 ──彼が私の婚約者。あと数ヶ月もすれば。

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