呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 当然のように、医学の乏しいこの世界で、この処置は不審に思われたものだが……それでも、誰もがベルティーナの言うことを拒まなかった。

 負傷者は痛がり、呻きを上げる者たちばかり。その中でもまだ幼い子どもがいたことに、ベルティーナはひどく心が痛くなった。

 だが、ここで驚いたのは、この場に女王が顔を出したことだろう。
 それも顔を出しただけに留まらず、ヴァネッサ女王はベルティーナを見つけてすぐに、処置の手伝いを行いたいから教えて欲しいと申し出たのだ。

 民を思い行動できる現在の国王……。そして、民を思い、いち早く駆けつけた次期王の候補……。それだけで、自分は〝本当に良い国〟に嫁いできたのだと、ベルティーナは改めて思った。

 ……そうして、負傷者全員の処置が終わったのは、宵の帳が落ちてからだった。

 何やら、小耳に挟んだ話によれば、消火は無事に済んだらしい。
 しかし、集落一つを焼き尽くすほどの大火だったそうで、この者たちをしばらく城に住まわせる他はないだろうと、そんな話を聞いた。

 しかし、ベルティーナからすれば複雑な心境だった。まさか、ヴェルメブルグでのことがこんな風に反映しているだなんて……。

 湯船に浸かったベルティーナはため息をこぼした。

 ……恐らく戦時は、ナハトベルグは恐ろしいことになっていたのだろうと想像は容易く、多くの犠牲が出たと思われる。だからこそ、人を恨めしく思い、自分を呪いに来た者がいたのだろう。だが、この本当の理由は……やけを起こして双方の世界を滅ぼそうと呪ったのだと、今ではもうはっきりと理解できた。

 何せ、〝繋がりを持つ〟という理論でいけば、表にあるヴェルメブルグが滅びれば、恐らく裏のナハトベルグも滅ぶのだから……。

 十七年も昔、翳の女王が自分のところに訪ねた本当の目的は……二つの国を存続させるため、未来をつなぐためだと、今さらになってベルティーナは理解した。

 しかし、表の世界を乗っ取れば、こんな災害に見舞われず暮らせるだろう、とは思う。
 だが、その部分は今までのミランの発言をつなぎ合わせると、少しずつ答えが見えてきた。

 魔性の者たちの祖先は、表にあるヴェルメブルグにそっくりの鏡像(きょうぞう)世界を裏側に創り、今日も人間の文化を大いに取り入れている。
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