呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 ベルティーナがぽつりと思ったままの言葉を漏らすと、ざわめいていた使用人たちの声がぴたりと止まった。
 ふと周りを見ると、その場に居合わせた者すべてが、ベルティーナの方を不思議そうに見つめていた。

「私はいくらか傷薬や消毒薬を持ってきた。それに、火傷の軟膏くらいなら作ろうと思えば作れるし、代用策も浮かぶわ。だから、運ばれた怪我人の処置は私にも手伝わせてちょうだい」

 はっきりと告げると、周囲はざわめき、双子の猫侍女たちは困窮したような顔をした。

「でも、でも……ベル様はミラン様の婚約者で……尊いお方。そんなことをする必要は……」

 双子の片割れが遠慮がちに言うが、それが妙に癇に障り、ベルティーナはたちまち目を吊り上げた。

「王子が番人として働いているのはアリなのに? 私はダメですって? おかしいじゃない。何が悪いかしら? 壊死なんてさせないわ。それこそ、薬草学に長けた私の出番でなくて?」

 毅然として言うと、双子の猫侍女たちは顔を見合わせる……。

「分かりました、ベルティーナ様のそのお心、私が使用人の長に告げましょう」

 今まで黙っていたハンナは真っ直ぐにベルティーナを見つめて頷いた。

「王城専属薬師に育てられた貴女ほど、これほどまでに頼もしい存在はありません。心強いです」

 ──頼りにしています、と頭を下げた後、ハンナは颯爽とその場を去っていった。

 ***

 それからしばらく。負傷者たちはベルティーナが想像するよりも多く運ばれてきた。
 この強風だ。森は広い面積を焼いたそうで、現在も延焼中だそうだ。

 負傷者たちは城の広間を解放し、そこに収容した。中でも目を覆いたくなるほどの重度の熱傷を負った負傷者は、空いた個室に収容し、そこで容態を見ることとなった。

 しかし、唯一の救いは、死者は今のところ確認されていないことだろう。
 ベルティーナは個室に入った重度の熱傷を負った者たちの処置に当たっていた。

 案の定、消毒液や軟膏は自分が持ってきたものだけでは足りなかった。あくまで応急処置ではあるが、蒸留酒を用いて傷口を洗い、軟膏においては、日中に目が利く自分が城下の街に走り、眠る店主を叩き起こし、蜂蜜を三瓶も買ってそれを代用した。

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