呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
Chapter2

第10話 紫の花弁に秘めた企み

 翳りの国──ナハトベルグに来て、早いこと二週間近くが経過しようとしている。
 昼夜逆転の生活の始めは、体調が芳しくなかったが、それでも一週間も経過してしまうと存外慣れてしまうものだった。

 ……しかし、その生活は途方もなく暇を持て余していた。

 特にこれと言ってやることが何もないのだ。一方、夫となるミランは、ほぼ毎日仕事があるようで……聞く話によれば、夜の帳が落ちる頃に城を出て、夜明けとともに帰ってくるそうだ。

 果たして、彼がどんな仕事をしているのか、ベルティーナは知らなかったし、()く気にもなれなかった。

 なぜなら、彼がこの婚礼を望んでいないという点もあるだろう。
 
 あの日、ベルティーナは体調が優れないと嘘をついて、すぐに自室へと戻った。
 その日の夜半、ミランが部屋に様子を見に来たが、ベルティーナはベッドに伏せたまま。特に会話を交わすこともなかった。それでも、彼はしばらくベルティーナの様子を見ていたそうで、明け方に部屋を出ていったそうだ。

 そんな話をハンナから聞いたが、彼の行動は何とも不可解に思える。
 
 さらに恐ろしいことに、その後毎日、ミランは夜明け前に必ずベルティーナの部屋を訪れるのだ。
 大した会話も交わさず、ただ一緒に呆然と座っているだけ。そうしてしばらく、どちらかが欠伸をした頃に「おやすみ」と告げて自分の部屋に戻っていくのである。
 望まぬ婚約者を相手に、まったく理解不能な行動だと思う。
 いったい何の目的でそのような行動に出るかは分からず、裏が読めないのだ……。
 だが、一つだけ考えられることと言えば……自分と親密さを築き、上手い断りを入れて婚約破棄する気だろうかと思う。
 
 そうなれば、ヴェルメブルクと翳りの国で交わされた和平は破綻するだろう。どうなるかは不明だが、最悪の事態と言えば両国が全面的に争うことになる。それは、母国を滅ぼしたいと望むベルティーナからすれば、結果だけ見れば悪いことではないと思った。

 だが、婚約が破綻すれば……当然、この城にいられるはずもないだろう。

 それは自分だけでなく、連れ添うことになったハンナもきっと同じだ。ただでさえ惨めな目に遭ってきた彼女に、追い打ちをかけるような真似はしたくないとベルティーナは思った。

 ……無論、自分だってできれば路頭に迷いたくはない。

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