呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 願わくば無事に婚姻に至らせ、報復は自分がいずれ魔に墜ちたときにすればいいと思った。
 だが、いつになったら魔に墜ちることができるかは見当がつかない。
 それぞれ発動に条件が違うとは聞いたが……〝足りぬものが満たされたとき〟と言っただろう。

 果たして自分に圧倒的に足りないもの──と、ベルティーナは思考を巡らせた。

 幸福……と、すぐに浮かぶものだが、それは、ありとあらゆるものがここから細かく分類される。そもそも、満たされていないこと自体が不幸でもあるのだから……。

(苛々するわ。早く魔に墜ちられないものかしら)

 ベルティーナは読んでいた薬草学の本を閉じ、こめかみを揉んだ。相当苛立っているからだろう。彼女は親指の爪を噛んだ。

 魔に墜ちることだけでなく、無事に婚姻できるか考えるほど、苛立ちは増す。
 事実上婚約しているが……正式な夫婦となるのは、彼の即位後になるらしい。その期間は予定ではおおよそ三ヶ月以上になると最近聞いたが……その合間に彼がリーヌと駆け落ちする恐れさえ沸いてくる。
 考えるほどに胸の中の不快が膨らみ、破裂しそうになることを自覚して、ベルティーナは思考を止め、ソファの背もたれにもたれかかった。

(そもそも、こんなことを延々と考えていられるなんて、私……本当に暇ね)

 ベルティーナは瞼を伏せてため息をこぼした。

 本当に毎日代わり映えがなさすぎる。城の敷地内であれば自由に歩き回っていいと言われたが、至るところで声をかけられることなど目に見えている。それではさらに気疲れを起こしそうに思えて、ほとんど部屋から出なかった。

 土いじりでもできたら退屈も凌げそうだが……。と、そんなことを思い立ったと同時、ベルティーナはぱちりと目を開いた。

(そうよ……そうすればいいのよ)

 何かを思い立ったものの、無表情のまま。ベルティーナはむくりと立ち上がり、颯爽と部屋を後にした。

 ***

 ──ミントにセージにカモミール。

 それらハーブ苗が入ったポットの群れに混ざり、ニオイスミレにジギタリス。トリカブトやベラドンナの苗が混ざっている。

 それらを見下ろすベルティーナは、無表情でありながらも心の中ではほくそ笑んでいた。

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