呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 我ながら本当に良い手段を考えたと、ベルティーナは目を細めて唇に笑みを乗せた。

「わぁ、ベル様、なんだかすごく嬉しそう」
「ねえ、ベル様が笑ってるのって初めて見たかも」

 ミランが言い出したことからか、すっかりこの愛称が浸透してしまったのだろうか。双子の猫侍女たちが顔を見合わせて言うので、ベルティーナはすぐに二人を睨んだ。

「私だって嬉しければ笑うわよ?」
「でも、事実、本当に嬉しそうですね。ベルティーナ様はお花が本当に好きなんですね」

 二週間前、初めて顔を合わせたときには過呼吸を起こしかけていたのに、もうすっかり慣れてしまったのだろうか……。
 ハンナが微笑ましそうに自分を見るので、ベルティーナは煙たげに鼻を鳴らす。

「そうね、植物は好きよ。育てれば必ず応えてくれて裏切らない。短い命の一年草でも、次に命を繋ぎ、種子を蒔いて再び芽吹く。そこが何よりの魅力ね」

 ──何より無駄なお喋りもしないしやかましくもないから。なんて、刺々しく付け加えたが、ハンナは依然として優しい眼差しを向けていた。

「……まあいいわ。さっさと始めましょう」

 淡々と告げると、三人の侍女からそれぞれ返事の声が上がった。

 ……人との関わりは疲れる。そう思ったベルティーナではあるが、不思議とこの三人の侍女にはだいぶ慣れてしまった。

 なにしろ、着付けや給仕を行う以外に、特にベルティーナの世話を焼こうとせず、〝ある程度は一人でやれる〟と言った言葉を尊重してくれたこともあるだろう。
 それに、一人で静かに過ごすことを好んでいることを察したのだろう。誰一人として無駄な介入をすることがなかったこともあり、ベルティーナは少しずつ心を許し始めていた。

「で、ベル様? イーリスたちは何のお手伝いをすればいいですか?」

 はーいと挙手しながら、イーリスが()く。

「まずは地面を耕すわ」
「どうしてです? 穴掘ってポンポンって植えちゃった方が早くないです?」

 まったく知識がないのだろうか。双子が顔を見合わせて小首を傾げる様子に、ベルティーナは先が思いやられると感じつつ、半眼になった矢先だった。

「あら、イーリスとロートスは知らないかしら? 植物だってふかふかなベッドが必要なのよ? 水も行き渡りやすい土壌にしなくちゃ、作物や植物って育ちにくいものよ?」

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