呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 今日のベルティーナの装いは、奇抜で華美なドレスではない。ハンナや双子の侍女が纏うものと同じお仕着せのエプロンドレスを纏っていた。

 ことは数日前に遡る。

 ヴァネッサ女王と直接話をしたいと申し出たところ、女王は二つ返事で快諾してくれた。そうして即日、女王と話すこととなり……ベルティーナは「城に庭園があるなら、自分の好きな草花を栽培したい」と申し出たところ、あっさりと承諾されたのである。
 それから双子の侍女に案内され、庭園に向かったが……ベルティーナはひと目でこの庭園が気に入った。

 高台にある城の高低差を利用しているのだろう。まるですり鉢のよう。煉瓦(れんが)を敷き詰めた棚状の畑がぐるりと囲っており、薔薇を中心に様々な植物が栽培されていた。

 緩やかな階段を上がった高台には、庭園全体を見渡せる東屋があるほか、その奥には古ぼけた見張り塔(ベルグフリート)が佇んでいる。

 女王曰く、この庭園は好きに使っていいとのこと。しかし、原型があまりに綺麗すぎる。

 新たな苗は、空いた場所に植え込もうと考えた。幸い、底にある噴水周りや高台にある東屋の付近はほとんど手を加えられていない。そこを耕し、畑を作ることから始めることをベルティーナは計画した。
 さらに嬉しかったことと言えば、「欲しい草花を言えば、苗や種を調達するよう庭師に言おう」と、女王が話を付けてくれたことだろう。
 そこで、ベルティーナはハーブに混ぜて毒を持つ美しい花々を指定した。

 指定した毒花はすべて紫の花弁をつける花。
 ドレスを選ぶ際「紫が好き」と一度公言したこともあるからだろう。誰もそれを怪しむ者はいなかった。

 だが、ベルティーナとしては、トリカブトとベラドンナを指定するのは少しばかり緊張した。これら二つは猛毒で、人を殺す力を持つことで有名すぎたからだ。

 ……だが、ここは魔性の者が住まう世界だ。
 彼らにとって毒はそれほどの脅威ではないのか、毒花に対する深い知識や関心がないのか定かではないが、深く詮索されなかった。

(これらの栽培は初めてだけど、野山に自生するような花だからきっと大丈夫でしょう。株を増やし、大量栽培。毒の抽出は製油の抽出と同じ要領でいけそうね。それをヴェルメブルク王城の井戸に……この方法なら魔に墜ちる前でも報復を与えられるわ。それも的確に……)

< 46 / 164 >

この作品をシェア

pagetop