呪われし復讐の王女は末永く幸せに闇堕ちします~毒花の王女は翳りに咲く~
 冒険や恋愛を綴った架空の物語にしても、異国の詩集にしても、その文から読み取れるさまざまな情景を想像することは、心が躍った。

 たとえば、春の訪れた街の華やかさ。軒下で〝猫〟という気まぐれで愛らしいふわふわとした動物が日向ぼっこをする様子や、爽やかな風が吹き抜ける夏の葡萄畑を駆ける〝犬〟という忠誠心の強い動物の姿。
 これらを細やかに想像することは、感情が乏しいベルティーナでも楽しいと思えたし、興味を惹かれるものだった。

 庭園を囲う柵から外の景色は一応拝めるが、外の世界の細かな部分はベルティーナには知り得なかった。

 羨望は当然のようにあった。

 幼い頃、庭園を抜け出そうと試みたことは幾度かあったが、それはすべて失敗に終わっている。だが、大人になるにつれて、庭園を抜け出そうという気持ちはなくなってしまった。

 庭園の出入り口は冷たい鉄柵の門。そこは固く施錠されている。それに、柵の向こうは断崖絶壁だ。落ちれば命がないこともあるだろう。

 だが、何よりの理由は「いくら外に憧れようと、この国の全貌なんて見たくもない」という嫌悪が芽生えたからだろう。

 ……確か、賢女はこう言った。

「この国は、戦争を繰り広げて近隣国の領地を奪っては吸収し、成り栄えた」と……。

 話によれば、賢女の故郷は半世紀以上も昔、ヴェルメブルクに吸収された小国だったそうだ。その戦火によって故郷だけでなく、親も恋人も仲の良かった友人たちも……何もかもが消えてしまったとベルティーナは聞いた。

「そりゃね。悔しかったし憎かったさ。とはいえ、逆らえぬ〝時代の流れ〟さ。今でも憎くないと言えば嘘になるが、こうして仕事を貰えて、遺された私がここまで長く生きられたことには嬉しく思うさね」

 散った命を哀れむように語った賢女の言葉は、今もベルティーナの心に染み込んでいた。

 さらに母国への嫌悪に拍車をかけたのは、自分が呪われた理由がこの国の戦が火種だったと知ったことだろう。

 翳りの国に通じるとされる北部に広がる神秘の森を焼き、妖精たちが報復と言わんばかりに自分を呪ったそうだが……呪われた当人でさえ、この報復は当然だと思った。

 しかし、呪われているとはいえ、その影響は皆無に等しかった。

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