森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
◇
そんなことがあった翌日、リーゼロッテたちはバルテン領を後にすることになった。最後にアルベルトと目があって、深々と頭を下げられる。
(これでアルベルト様の食生活が改善されるといいのだけれど……)
粉末にしたビンゲン茶やびんげんふりかけ、平民に賞金を出すビンゲンレシピコンテストなど、ビンゲンを広めるためのアイデアは、考えれば意外と浮かんでくるものだ。思いつく限りを尽くして、アルベルトにだけそっと耳打ちしておいた。彼の案ということにした方が、アルベルトもバルテン家で立場を作りやすいだろう。
リーゼロッテが無言で頷くと、アルベルトもまた頷き返してきた。目と目で通じ合うふたりを遮るように、ジークヴァルトがいきなり抱き上げてくる。
「もう、ヴァルト様、クリスティーナ様も見ていらっしゃいますのに」
ついと顔をそらされたまま馬車へと乗り込んだ。並び立つクリスティーナとアルベルトに見送られ、馬車は緩やかに走り出す。
「しばらくビンゲンはもういい感じですわね」
「オレは生涯いらないがな」
めずらしく本音をもらすジークヴァルトに、リーゼロッテはくすくすと笑った。
「でもクリスティーナ様がおしあわせそうで本当によかった……」
向かうときはあれほど重かった心が、今ではこんなにも晴れやかだ。息をつき胸に頬を預けた。数日ぶりの温もりに、甘えたい気分になってくる。しかしすでにジークヴァルトは、眉間にしわを寄せて書類の束を広げていた。
(こっち、見てくれないかな……)
ジークヴァルトの瞳が好きだ。吸い込まれそうなその青に、いつでも魅入られてしまう。思えば王妃の茶会で再会したあの時にはもう、ジークヴァルトのことを好きになっていたのかもしれない。
ますます難しい顔をして、ジークヴァルトは書類の文字を目で追っていく。引き結ばれた唇を見て、アルベルトたちのラブシーンがふとよぎった。
(クリスティーナ様、とっても気持ちよさそうだった……)
そんなことがあった翌日、リーゼロッテたちはバルテン領を後にすることになった。最後にアルベルトと目があって、深々と頭を下げられる。
(これでアルベルト様の食生活が改善されるといいのだけれど……)
粉末にしたビンゲン茶やびんげんふりかけ、平民に賞金を出すビンゲンレシピコンテストなど、ビンゲンを広めるためのアイデアは、考えれば意外と浮かんでくるものだ。思いつく限りを尽くして、アルベルトにだけそっと耳打ちしておいた。彼の案ということにした方が、アルベルトもバルテン家で立場を作りやすいだろう。
リーゼロッテが無言で頷くと、アルベルトもまた頷き返してきた。目と目で通じ合うふたりを遮るように、ジークヴァルトがいきなり抱き上げてくる。
「もう、ヴァルト様、クリスティーナ様も見ていらっしゃいますのに」
ついと顔をそらされたまま馬車へと乗り込んだ。並び立つクリスティーナとアルベルトに見送られ、馬車は緩やかに走り出す。
「しばらくビンゲンはもういい感じですわね」
「オレは生涯いらないがな」
めずらしく本音をもらすジークヴァルトに、リーゼロッテはくすくすと笑った。
「でもクリスティーナ様がおしあわせそうで本当によかった……」
向かうときはあれほど重かった心が、今ではこんなにも晴れやかだ。息をつき胸に頬を預けた。数日ぶりの温もりに、甘えたい気分になってくる。しかしすでにジークヴァルトは、眉間にしわを寄せて書類の束を広げていた。
(こっち、見てくれないかな……)
ジークヴァルトの瞳が好きだ。吸い込まれそうなその青に、いつでも魅入られてしまう。思えば王妃の茶会で再会したあの時にはもう、ジークヴァルトのことを好きになっていたのかもしれない。
ますます難しい顔をして、ジークヴァルトは書類の文字を目で追っていく。引き結ばれた唇を見て、アルベルトたちのラブシーンがふとよぎった。
(クリスティーナ様、とっても気持ちよさそうだった……)