森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
「あの時は……馬に乗ると手紙に書いてきただろう。それでだ」
「馬に……?」
「ああ、何かあったら危険だろう」
「ですがあの時はアデライーデ様がいらっしゃって……」
「それでもだ」

 ぽかんとしてジークヴァルトを見上げる。次いで笑いが込み上げた。

「もう、ヴァルト様ったら。それでお忙しい中遥々(はるばる)やって来られたのですか? いくらなんでも過保護すぎますわ」
「そんなことはない。お前を守るためにオレはいる」

 ジークヴァルトの指が二本、頬の上をゆっくり滑る。真剣に見つめられ、かっと頬に熱が集まった。ジークヴァルトはいつも不意打ちだ。動揺を隠すために、リーゼロッテは上ずったまま話をそらした。

「そ、そういえばヴァルト様、一時期わたくしの口元ばかり見ていらっしゃいましたよね。あれは一体なんだったのですか?」
「それは……お前の気のせいだ」

 一瞬言葉に詰まってから、ジークヴァルトはついと顔をそらした。これは何かをごまかしている。そうは思うものの理由に見当はつかなかった。

(ヴァルト様がキスしたいって思ってるって、エラには言われたけど……)

 ふたりきりのときでも、そんなそぶりは見せてこない。やはり他に理由があったのだろう。

「わたくしったら、すっかりお仕事の邪魔をしてしまって……申し訳ございませんでした」

 ジークヴァルトが仕事中だったことを思い出し、リーゼロッテはおとなしく引き下がった。これ以上時間を取らせるのは、さすがに迷惑行為というものだ。

「いい。何かあったらいつでも言え」

 そっけなく言うと、ジークヴァルトは再び書類を手に取った。

 真剣な表情の横顔を見上げる。もっと近づきたいのに、いざとなると逃げ腰になってしまう。そんな自分に気がついて、リーゼロッテは経験値のなさに内心ため息をついた。

(焦ってもしょうがないのかも……わたしたちにはわたしたちのペースがあるんだし、ゆっくりやっていけばいいのよね)

 これからずっとジークヴァルトと一緒にいるのだ。クリスティーナたちと比較すること自体どうかしている。それにいずれ婚姻を果たす時が来る。そうなれば、おのずとステップアップできるのだろう。

 思い悩むのが馬鹿馬鹿しくなって、リーゼロッテは流れゆく景色に意識を向けた。

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