森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
「こんな雪深い時に託宣の神事に来るなんて、あなた方も物好きですね。前倒しにするにしても、普通は夏場を選ぶのに」
「そうおっしゃられましても、神事は王命ですし……」
「なるほど。今代の王は随分とお節介のようだ」

 そう言われてリーゼロッテは首をかしげた。ジークヴァルトの顔を伺っても、口をへの字に曲げているだけだ。

「まぁシンシアが受けたのだから、何も問題はないでしょう」
「森の巫女はシンシア様とおっしゃるのですか?」
「ええ、シンシアは満月の魔女ですから」

 当たり前のように言われたが、言葉の意味がよく分からない。ずっと森に住んでいて、常識が自分たちとは違うのだろうか。

 曲がりくねった小路が開け、そこにはそりにつながれた犬たちがいた。シルヴィの姿を認めると、くつろいだ様子から尾を立て一斉に立ち上がる。

「さぁ、客人のお出ましですよ。今日はいつもより重いそりですから、みなさん張り切ってくださいね」

 シルヴィの言葉に、長い舌を出して興奮し始める。全部で六頭ほどいて、今まで見たことがないくらい大きな犬だった。

「ボクが後ろでそりを操りますから、おふたりは前に座って乗ってください。聖杯のあなたが美酒の君を膝に抱えるといいでしょう」

 そりに近づくと、犬たちが興味を示したようにこちらを向いた。リーゼロッテをじっと見つめると、はっはと息を荒げた舌先からよだれの雫が流れ落ちる。

「駄目ですよ、みなさん。残念ですが、はごろもの乙女たちはきちんと仕事をこなしたようです。結びのひとつでも間違えてくれていれば、ボクもご相伴(しょうばん)に預かれたんですけどね」

 意味の分からないことを言って、シルヴィは興奮する犬たちを(なだ)めた。きゅうんと切なげな声を出すと、おとなしく前に向きなおる。

 シルヴィが後ろに立ったのを確認してから、ジークヴァルトもそりに乗り込んだ。膝の間にリーゼロッテを座らせて、腕を巻きつけ抱え込んでくる。

「この先の道は比較的真っ直ぐですが、カーブでは重心に注意してくださいね。一度客人が転がり落ちて、探すのに苦労したんですよ。では、準備はいいですか?」
「ああ」

 ジークヴァルトの腕に力が入る。それに合わせるように、リーゼロッテも緊張で身を縮こまらせた。

< 112 / 185 >

この作品をシェア

pagetop