森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
「走れっ!」
そりの後部からシルヴィが声を張り上げる。耳を張った犬たちが四肢を蹴り上げ、胴輪につながるロープがぎしりと軋んだ。雪に沈んだそりがわずかに動くと、シルヴィも柄を押しながら同時に走り出す。
そりはあっという間に速度を増した。雪を蹴る犬たちが飛ぶように前を行く。視界の端で木々が溶けて流れ去り、近すぎるすれすれの地面に目をつぶった。当たる風の冷たさに口元を覆うと、ジークヴァルトが風よけとなって抱え込んでくる。
加速していたそりが安定した走りとなって、恐々とようやく瞳を開いた。
きらめく銀世界を疾風のごとく駆け抜ける。ジークヴァルトがうまく重心を移動してくれるので、カーブでも安心して身を任せることができた。まるでジェットコースターに乗っているようで、余裕が生まれるとなんだか楽しくなってくる。
「どうですか、そりの乗り心地は。ああ、そろそろ大きく跳ねますのでしっかりつかまっててくださいね」
言うなり、そりが大きくジャンプした。何秒か滞空した後、バウンドを繰り返して再び地面を滑り出す。
刺激的なアトラクションに、リーゼロッテは瞳を輝かせた。異世界に転生してから、これほど興奮したことはない。
「慣れてしまえば、そりもなかなか爽快でしょう?」
「ええとても。シルヴィ様はこの森に住んでいらっしゃるのですか?」
「はい、普段は薬草などを取って、魔女に届けたりしています。番人として森に客人を迎え入れるのは、十八年ぶりくらいでしょうか。ここ最近、託宣の神事の数はめっきり減ってしまっていますから。実に退屈なものです」
シルヴィは二十代前半くらいで、まだまだ若そうに見える。十八年ぶりと言われて、少し意外に思えた。
「ああ、そう言えば、前回の美酒の君はあなたにそっくりな方でしたね」
「美酒の君……ですか?」
「託宣の神事を受けに来た男女は、それぞれ聖杯と美酒の君と呼ばれるんですよ。十八年前に来たのは……確かラウエンシュタインの血筋の方でしたね」
「まぁ! でしたらそれはわたくしの母ですわ」
「やはりそうでしたか。その時の聖杯は、銀髪でなかなか愉快な方でした」
きっとイグナーツのことだろう。後ろに立つシルヴィとそんな話をしていると、ジークヴァルトが不機嫌そうに腕の力を強めてきた。会話に混ざりたいのなら、自分も何か話せばいいのに。リーゼロッテはそんなことを思った。
「あの大きなもみの木を過ぎたら間もなくです。ほら、あれが魔女の住む館ですよ」
木々の合間に建物が見え隠れする。遠くに見えたもみの木は、近づくと本当に大木だった。
そりの後部からシルヴィが声を張り上げる。耳を張った犬たちが四肢を蹴り上げ、胴輪につながるロープがぎしりと軋んだ。雪に沈んだそりがわずかに動くと、シルヴィも柄を押しながら同時に走り出す。
そりはあっという間に速度を増した。雪を蹴る犬たちが飛ぶように前を行く。視界の端で木々が溶けて流れ去り、近すぎるすれすれの地面に目をつぶった。当たる風の冷たさに口元を覆うと、ジークヴァルトが風よけとなって抱え込んでくる。
加速していたそりが安定した走りとなって、恐々とようやく瞳を開いた。
きらめく銀世界を疾風のごとく駆け抜ける。ジークヴァルトがうまく重心を移動してくれるので、カーブでも安心して身を任せることができた。まるでジェットコースターに乗っているようで、余裕が生まれるとなんだか楽しくなってくる。
「どうですか、そりの乗り心地は。ああ、そろそろ大きく跳ねますのでしっかりつかまっててくださいね」
言うなり、そりが大きくジャンプした。何秒か滞空した後、バウンドを繰り返して再び地面を滑り出す。
刺激的なアトラクションに、リーゼロッテは瞳を輝かせた。異世界に転生してから、これほど興奮したことはない。
「慣れてしまえば、そりもなかなか爽快でしょう?」
「ええとても。シルヴィ様はこの森に住んでいらっしゃるのですか?」
「はい、普段は薬草などを取って、魔女に届けたりしています。番人として森に客人を迎え入れるのは、十八年ぶりくらいでしょうか。ここ最近、託宣の神事の数はめっきり減ってしまっていますから。実に退屈なものです」
シルヴィは二十代前半くらいで、まだまだ若そうに見える。十八年ぶりと言われて、少し意外に思えた。
「ああ、そう言えば、前回の美酒の君はあなたにそっくりな方でしたね」
「美酒の君……ですか?」
「託宣の神事を受けに来た男女は、それぞれ聖杯と美酒の君と呼ばれるんですよ。十八年前に来たのは……確かラウエンシュタインの血筋の方でしたね」
「まぁ! でしたらそれはわたくしの母ですわ」
「やはりそうでしたか。その時の聖杯は、銀髪でなかなか愉快な方でした」
きっとイグナーツのことだろう。後ろに立つシルヴィとそんな話をしていると、ジークヴァルトが不機嫌そうに腕の力を強めてきた。会話に混ざりたいのなら、自分も何か話せばいいのに。リーゼロッテはそんなことを思った。
「あの大きなもみの木を過ぎたら間もなくです。ほら、あれが魔女の住む館ですよ」
木々の合間に建物が見え隠れする。遠くに見えたもみの木は、近づくと本当に大木だった。