森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
止まれ(ウォー)――っ!!」

 ブレーキを掛けながらシルヴィが声を張り上げると、犬ぞりは速度を落とした。立派な丸太小屋のある開けた場所で、うまい具合に停止する。

「みなさんご苦労様でした」

 走り通しだった犬たちが、そこら辺の雪を勢いよく食べ出している。それを眺めている間に横抱きにされ、新雪の上、慎重に降ろされた。

「問題はないか?」
「はい、ヴァルト様が支えていてくださいましたから」

 はにかんで見上げると、ジークヴァルトがぎゅっとつらそうに眉根を寄せた。旅に出てから頻繁にこんな顔をする。気になっていても、リーゼロッテは理由を聞けないでいた。
 問うたところで問題ないと返ってくるだけだ。どうしても弱音を見せたくないと言うのなら、無理強いして口を割らせるわけにもいかなかった。

「はい、みなさん、ご褒美ですよ。ほら喧嘩しないで。ちゃんと数はありますから」

 シルヴィがバケツから肉の塊を配っている。ガチガチに凍っているようだが、犬たちはそれをものともせず、すごい勢いで肉に食らいついていた。

 先に食べ終わった犬と目があって、リーゼロッテはにこやかにほほ笑んだ。ここまで運んでくれたのだ。礼のひとつくらい言うべきだろう。近づこうとするも、ジークヴァルトが引き離すように腕に抱え込んでくる。

「どこへいく?」
「犬にお礼を言うだけですわ」

 小首をかしげ、犬たちに向き直る。その瞬間、手前にいた犬がいきなりリーゼロッテに飛びかかってきた。

「きゃあっ」

 胴輪(ハーネス)がぴんと張り、巨体が頭を越えた高さで跳躍(ちょうやく)してくる。ジークヴァルトが引き寄せるのと同時に、ばちりと大きく火花が散って、盛大に犬が(はじ)かれた。
 ぎゃうんと悲鳴を上げながら犬は雪の中を転がった。つながった犬たちがつられるように混乱し始める。

「ほらほら、みなさん落ち着いて。美酒の君は退魔のはごろもを着ているんですよ。我々が魔女の力に敵うわけないでしょう?」
「退魔のはごろも?」

 最果ての街で着せられた衣裳だ。これを着ていないと狼主(おおかみぬし)に食べられてしまう。少女たちは口々にそう言っていた。

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