森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
「すみません。ご馳走(ちそう)を前にみんな、長年お預けをくらっているものですから」
「お預けを……?」

 犬たちはおいしそうに肉を食べていた。それでもまだ満足していないと言うのだろうか。

「ああ、魔女のことですよ。あんなにおいしそうなもの、ほかになかなかありませんからね」

 シルヴィの言葉に犬ぞり隊を見やった。

「この犬たちは人を食べるのですか……?」
「犬? 何をおっしゃってるんですか。これは狼ですよ」
「お、狼!?」

 不用意に近づこうとした自分が怖くなる。思わずジークヴァルトにしがみついた。

「ではこの子たちが森の狼主なのですか?」
「いいえ、狼主は別にいます。とても嫌われてしまっていて、なかなか魔女が会ってくれないんですよ。この森にはわたしとシンシアしかいないのに、ご近所づきあいくらいしてくれてもいいのにって、そうは思いませんか? でも今日はおふたりのおかげで、会ういい口実ができました」
「狼主ってもしかして……シルヴィ様のことなのですか?」

 要約するとそう言うことだと思えてきた。狼主は女を食べてしまうらしい。恐る恐る聞くと、シルヴィはにっこりと笑顔を返してくる。

「ご想像におまかせします。では、魔女の元にご案内しますよ」

 はぐらかされ、それ以上は何も聞けなくなる。ジークヴァルトを見上げると、腕にすかさず抱き上げられた。すっかり過保護モードスイッチオンだ。シルヴィに対しても警戒を強めているようだった。

「シンシア? 客人が到着されましたよ」

 丸太小屋のノッカーをコツコツと叩く。青龍のレリーフが輪を(くわ)えたとても立派なものだ。

「ヴァルト様、もう降ろしてくださいませ」

 耳打ちすると渋々降ろしてくれた。神事を務める森の巫女に、抱っこで目通りする訳にはいかないだろう。何しろ魔女と呼ばれるご高齢の巫女様だ。王族の血筋であるし、失礼があってはならない。国の代表として、ここは最大級の礼節をもって挨拶しなければ。

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