森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
 (またた)く星のごとく光を放つそのふた粒は、導かれるようにやがてシンシアの手の内に落ちてくる。握り込まれたその刹那、星は輝きを失った。それと同時に渦巻く水面(みなも)も、緩徐に勢いを弱めていく。

 桟橋を渡りシンシアはふたりの待つ湖畔へと戻ってきた。背にする湖は、再び沈黙の鏡となっている。

「青龍の(ゆる)しをここに示す。ふたりとも手をお出しなさい」

 右手を差し出したジークヴァルトに(なら)って、リーゼロッテもシンシアに向けて手を差し伸べた。握っていた何かを、シンシアはそれぞれの手のひらに手落としてくる。
 託されたのはひと粒の小さな石だった。くすんだ石を見つめ、リーゼロッテは次の指示を待つ。

「そこに力を籠めなさい」

 そう言われ、これは守り石なのだとようやく気がついた。軽く握り込んだ手の中で、ジークヴァルトの石はすでに青く輝いている。慌ててリーゼロッテも両手で石を包み込んだ。慎重に、緑の力を流し込む。
 そっと開いた手の中で、美しく緑を(たた)えた石が顔を覗かせた。ほっとするのも束の間、シンシアの声が意識を戻す。

「それを互いの耳にあて、今から言う文言(もんごん)を復唱なさい」

 戸惑いながら見上げると、ジークヴァルトは手にした石を耳元に近づけてきた。リーゼロッテも腕を伸ばし、向かい合わせでジークヴァルトの耳へと石を(かか)げ持つ。

「青龍よ、我が言霊を聞け」
「「青龍よ、我が言霊を聞け」」

 見つめ合ったまま、シンシアの言葉を同時に復唱していく。

「ザスとメアの、託宣の誓いの言霊を紡ぐ」
「「ザスとメアの、託宣の誓いの言霊を紡ぐ」」

「約束の定めし時を刻み」
「「約束の定めし時を刻み」」

「今ここに、(あかし)を確かに示さん」
「「今ここに、証を確かに示さん」」

 その瞬間、手にした守り石が強い光を放った。同時に耳たぶに小さく痛みが走る。

「あ……」

 握っていたはずの石が、ジークヴァルトの耳でピアスのように輝いていた。自分の耳たぶにも、青の波動を強く感じる。ジークヴァルトの手が空っぽなのを見て、耳にあるだろう石を無意識に指で確かめた。

 その耳にジークヴァルトが指を伸ばしてくる。耳朶(じだ)に触れられ、さらに青の波動が強まった。見つめ合い、リーゼロッテもジークヴァルトの耳へと手を伸ばす。

 自分の耳にジークヴァルトの青が輝き、ジークヴァルトの耳に自分の緑が輝いている。まるで誓いの指輪の交換のようだ。リーゼロッテの心の奥が、ジークヴァルトへの思いで満ち溢れる。

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