森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
「無事に受け入れられたようね」

 はっと意識を戻す。神事のまっ最中に、ふたりの世界に浸ってしまっていた。慌ててジークヴァルトから手を引っ込めて、リーゼロッテは羞恥で顔を赤らめた。

「神事は以上よ。あとはふたりで好きになさい」

 シンシアの目配せで、遠くにいたラウラが近寄ってきた。

「あの道を行けば館へとたどり着きます。わたしはひと足先に行って待っておりますので、お気をつけてお越しください」

 頷いて、リーゼロッテはシンシアに向けて礼を取った。ジークヴァルトに連れられて、湖のほとりをあとにする。

「シンシア様、久方ぶりの神事でお疲れでしょう。満月期とはいえ、狼主が来たら厄介です。お早めにお戻りになった方がよろしいかと」
「そうするわ。明日からはまた吹雪きそうね。ラウラ、しばらくはあのふたりのこと、よろしく頼むわ」
「お任せください。とはいえ、託宣の(つがい)様たちです。わたしの出番はそう多くないでしょう」
「ほどほどに任せるわ」

 ラウラが去っていくと、シンシアは静かに湖畔に視線を向けた。神事を終えたばかりのこの場所は、青龍の気配に満ちている。

「盾の(つがい)に星読みの末裔を選び取るなんて……それほどまで龍の血脈は、血が薄くなっているということね……」
「自分に呪いを背負わせた国を、いまだ憂いているんですか? シンシアも人がいいですね」

 音もなく現れたシルヴィを、シンシアは一瞬だけ見やった。何も聞こえなかったように、すぐに背を向ける。

「待っていてください。いつか必ず、シンシアを自由にしてあげますから」
「必要ないわ」

 冷たく言って、シンシアは歩き出した。

「さて、次に声が聞けるのはいつになるでしょうね」

 その背中を見送って、残されたシルヴィはひとりたのしげに笑みをつくった。

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