森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
 突然のことに、一気に意識が覚醒した。薄い夜着の上、大きな手が触れている。どう考えても、偶然当たってしまいましたという触れ方ではなかった。強い意思を持って揉んでいる。そんな迷いのなさが、指の動きから伝わってきた。

「んむぅっ! んっ、うんんっ!」

 塞がれたままの口からは声を出すこともできなくて、咄嗟にジークヴァルトの手を掴み取った。やめさせるように手を重ねるも、怪しい動きは止まらない。

(何? 今から? 今からなの……?)

 半ばパニック状態で、リーゼロッテは必死に首を振った。この胸は、悲しいかなAカップだ。だがもっと高みをめざせる、ポテンシャルある胸なのだ。
 現状、東宮で得たプロポーションにはほど遠い。いずれ迎える夫婦生活のために、旅から帰ったらバストアップに励むのだ。それをなぜ今、ジークヴァルトに揉まれているのか。

(こんなときは、そう、プレゼンよ……!)

 今までの経験上、理屈さえ通っていれば、ちょっとしたことならジークヴァルトは無理強いしてこない。小胸がバレてしまう前に、なんとしても阻止しなければ。

 いやいやとするうちに、ジークヴァルトの唇からなんとか逃れた。また塞がれないようにと、顔を背けて最大限横を向く。
 差し出された首筋に、(ついば)むような口づけが落ちてくる。

(プレゼン、プレゼンよ……!)

 ぐるぐる回る思考の中、説得できそうな言葉を死に物狂いで探しあてた。

「ヴァルト様……こういったことは婚姻を果たしてからでないと」

 そうだ、きちんと籍を入れるまでは、貴族として節度を保つべきだ。ぐうの音も出ないであろう言葉を提示して、胸を揉まれながらもリーゼロッテは勝利を確信した。
 しかしジークヴァルトの動きは止まらなかった。耳元に熱い吐息を落としてくる。

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