森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
 心の葛藤を知ってか知らずか、ジークヴァルトがじっとこちらを見つめてくる。せっかく選んでくれたのだ。そう思ってリーゼロッテは、ビョウの端っこをひと口だけ小さくかじった。
 口の中を一気に芳香が広がっていく。季節外れにもかかわらず、このビョウはとても甘かった。

「うまいか?」
「はい、とても。でも、ヴァルト様はお食べにならない方がいいと思いますわ」

 甘いとはいえ時季外れのビョウは、旬のものに比べると酸味が強い。そのくらいの方がリーゼロッテにしてみれば好みの味だ。だが酸っぱいものが苦手なジークヴァルトには、きっと酸っぱすぎるに違いない。

 口をつけた以上、頑張って食べきらなくては。もうひとかじりしようとすると、ジークヴァルトが残りのビョウを自分の口に放り込んでしまった。やはり酸っぱかったのだろう。途端にその口元がすぼまった。

「もう、だからお食べにならない方がいいと申しましたのに。ヴァルト様には、こちらの方がよろしいですわ」

 口直しに熟れた苺をつまみ上げる。口元まで持っていくと、ジークヴァルトは素直に唇を開けた。
 しかし口に(くわ)えたまま、ジークヴァルトは一向に苺を食べようとしない。じっと見つめ合って、迷惑だったかとリーゼロッテは再び苺へと手を伸ばした。

 その手を引かれ、いきなり唇を塞がれる。柔らかな果肉を押しつぶしながら、ジークヴァルトがそれを舌で押し込んできた。
 口の中、甘い果汁が広がって、唇の端から零れ落ちていく。逃げても追ってくる舌に絡めとられ、ふたりの間で踊る苺は、やがてぐちゃぐちゃに溶けてなくなった。

「……もう、べたべたですわ」

 恥ずかしさをごまかすために、抗議の声を上げる。ぷくと頬を膨らませるも、ジークヴァルトは首に伝った液を、下から上へと舐め上げてきた。

「今、綺麗にしてやる」
「やっ……あっ」

 肩を押すも、ジークヴァルトの唇は止まらない。

「あっ、ヴァルト様、やめっ」

 首筋を(ついば)みながら、口づけは耳にまで登ってきた。慌てたリーゼロッテは必死に涙目で訴えかけた。

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