森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
     ◇
 そのあとの記憶は断片的だ。

 気づくとジークヴァルトとともに寝室にいた。かと思えば湯船の中を漂って、ぼんやりと見上げた先でジークヴァルトと目が合った。
 次に気づいたときは、暖炉の前で髪を丹念に乾かされていたように思う。時に膝の上で食事を運ばれ、気づくとまたジークヴァルトの腕の中で夢を見る。

 今が朝なのか夜なのか、幾日たったのかもよく分からない。とにかくジークヴァルトに翻弄されて、訳も分からないままの時間を過ごした。

 車輪の回る音がする。聞きなれた鼓動を耳にしながら、リーゼロッテは重い(まぶた)を開いて、辺りを見回した。

「起きたのか?」

 気づくと走る馬車の中だった。いつの間に森を出たのだろう。何も記憶がなくて、リーゼロッテは不思議そうにジークヴァルトを仰ぎ見た。

「わたくしずっと眠って……?」

 かすれた声が出て、喉が渇いていることに気づく。すぐさまジークヴァルトは水差しの中身をグラスに注いだ。手渡してくれるものだと思っていたら、ジークヴァルトはそれを先に自分で(あお)ってしまった。

 いつもなら先回りして分かってくれるのに。そんな不満を抱きつつも、ジークヴァルトもちょうど喉が渇いていたのかもしれない。そう納得して、自分も飲みたいと口に出そうとした。
 ふいに顔を上向かせられ、間髪置かずに唇を塞がれた。

「んんんっ!?」

 口内に、冷たい水が注がれる。突然のことに驚いて、大半が口の端からこぼれてしまった。首筋に伝った水滴を丁寧に舐め取ると、ジークヴァルトは再び水を自らの口に含んだ。
 止めることも忘れて、その唇を受け入れた。ちょろちょろと慎重に流し込まれる水分を、今度は上手に飲み込んだ。

「まだ飲むか?」
「え、いいえ、もう大丈夫です」

 寝ぼけ(まなこ)のまま答えると、グラスを置いたジークヴァルトが再び唇を寄せてきた。

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