森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
     ◇
 ハリセンボンのように極限まで頬を膨らませて、リーゼロッテは馬車から降りた。疲労を訴える足は歩くこともままならなくて、いつものように抱き上げられ宿へと向かう。

「ああ、奥様! もしや酔われてしまったのですか!? 申し訳ございません、細心の注意を払って馬車を走らせたのですが……!」

 くったりともたれかかるリーゼロッテを見て、御者が悲嘆にくれた声で言った。これはあなたのせいじゃない。そうは思うも、恥ずかしくて顔を上げることはできなかった。

「いや、問題ない。すぐに落ち着く」

 そうだ。すべてはジークヴァルトが元凶だ。いやだやめろと訴えたのに、結局は馬車が止まる直前まで、あんあん言わされてしまった。
 申し訳なさそうな御者の顔をまともに見られなくて、赤くなった顔をジークヴァルトの胸に隠すようにうずめた。

 宿の中に入って、ほっと息をつく。これでようやくひとりで眠れる。世話係の女性がいれば、ジークヴァルトもさすがに手を出しては来ないだろう。

 抱えられたまま、一室に通された。大股で寝室まで行ったジークヴァルトに、寝台の(ふち)に座らされる。
 そのままころんと押し倒されて、リーゼロッテはぽかんとジークヴァルトを見上げた。いつもなら頭のひとつも撫でてから、ジークヴァルトが部屋を出ていくところだ。

「あの、ヴァルト様?」
「そのままでは中途半端でつらいだろう? 今楽にしてやる」
「え? あっ」

 引導を渡す口ぶりで、スカートをまくり上げられる。しゃがみこんだジークヴァルトにそのまま顔をうずめられそうで、咄嗟に足で頭を挟みこみ、なんとか動きをブロックした。

< 142 / 167 >

この作品をシェア

pagetop