森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
「泉での神事は婚姻のためのものだと、ヴァルト様は初めから知っていらしたのですか?」
「ああ」
「それならわたくしにも、前もって教えてくださってもよかったのに」

 拗ねたように言うと、ふっと笑われた。

「教えるも何も、勅命書にそう書いてあっただろう?」
「えっ? そう……だったのですか?」

 堅苦しい言い回しをろくに確認せずに、大体そんな感じで済ませてしまった自分を悔やむ。こうなれば自分以外の人間は、この旅が婚姻のためのものであると認識していたということだろう。

 しばし呆然としていると、髪を絡めたままの手が耳の辺りでふと止まった。

「口づけるのは……」
「え?」
「馬車で口づけるのは駄目か?」

 じっとみつめられ、頬がかっと熱を持つ。

「く、口づけだけなら……」

 恥ずかしくて視線をそらすと、すかさず顎をすくわれた。
 (ついば)むキスはすぐに深いものに変わっていった。後頭部を押さえられ、舌が奥へと侵入してくる。

「ぅんん」

 胸を押すも、どんどん顔を上向かされてしまう。自分が思っていたライトな口づけには程遠くて、やめさせなくてはと思ったときには、もはや手遅れだった。気づくと椅子の上に押し倒されていた。
 真上からのキスは少し乱暴で、それでも逃げ場がなくて、どうしようもないくらいに気持ちがよくなってしまう。

 しばらくののち、唇が離された。酸素を求め大きく息を吸い込むと、再び口づけが降ってきた。

「ぁっは……ヴァルトさま、もう……」

 顔を背けてどうにか回避すると、今度は耳に唇が落ちてくる。

「ぁ……それは駄目……」
「駄目か?」
「だってそれ、口づけじゃ、な……」

 落とされ続ける唇はどんどん下へと下がっていった。

「いや、これは口づけだ。何も口にするだけとは言ってない」
「そんな!」

 ジークヴァルトがいきなり服の上から胸元に落とされる。

「やっ、それ絶対にくちづけじゃな……っ」
「先ほど口に同じことをした。どう考えても一緒だろう」
「ぜんっぜん、いっしょじゃなぁあい……っ!」


 結局は馬車が止まるまでジークヴァルトの暴走は止まらず、とてもひとには言えないところにまで、口づけられてしまったリーゼロッテだった。

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