森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
     ◇
「はぁ、さっぱりしたわ」

 ゆるく三つ編みを作りながら、鏡に映る自分を見やる。

(わたし本当にジークヴァルト様と夫婦になったんだわ)

 森を出てからというもの、呼称がいきなり奥様に様変わりした。しかし鏡の向こう、見つめ返してくる自分はまだあどけなくて、いまいち実感がわかないリーゼロッテだ。

「それにしてもヴァルト様の変わりようっていったら……」

 突拍子のなさは相変わらずだが、不意打ちのレベルが格段に上がっている。あのジークヴァルト相手に、うまくやっていけるだろうか。気恥ずかしさよりも、いまだ信じられないという思いの方が強かった。

「ここ数日、本当に記憶が曖昧なのよね」

 ジークヴァルトに翻弄され続けて、食事も湯あみも夢うつつの出来事だった。とぎれとぎれの記憶では、風呂にまでジークヴァルトに入れられていた。公爵家に戻ってからも、こんな生活が続くのだろうか。それだけはなんとか避けて通りたい。

(絶対に気力も体力も持たないわ。でも帰ったら、ヴァルト様は領地のお仕事があるし、エラたちもいてくれるし……)

 あれこれと考えているうちに、夕食も先に済んでしまった。久しぶりのひとりきりの時間に、手持ち無沙汰になった。広い部屋にぽつりと取り残されて、なんだかさみしい気分にみまわれる。
 こんな時はどうやって過ごしていただろうか? ほんの少し前のことなのに、それがよく分からない。

(行きの道中は疲れてすぐ眠ってしまっていたっけ)

 そう思うなり眠気が襲ってくる。あふと小さくあくびをすると、リーゼロッテは寝室へと向かった。

「起きて待っていたいけど、先に寝てろって言われたし……」

 布団を温めておくという名目で、リーゼロッテはリネンをめくり中に潜り込んだ。
 三つ編みを下敷きにしないよう胸元に流し、ふかふかの枕に頭を沈める。ひとりで眠るにはこの寝台は大きすぎて、横向きに自分を抱きしめリーゼロッテは小さく丸くなった。

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