森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
「ああ、彼も優秀な人材だな。どうして従者などやっているのか……騎士団に引き抜きたいくらいだ」
「彼は次の家令になることが決まっているそうですわよ。公爵様の右腕ですもの。無理はおっしゃらないでくださいませ」
「なんと、文武両道か。ヤスミンの婿(むこ)に欲しいくらいだな」
「もうお父様ったら。公爵家の英才教育を受けた人物を引き抜こうだなんて、フーゲンベルク家を敵に回しますわよ。その前にお母様に離婚を言い渡されそうですけれど」
「縁起でもないことを言わんでくれ」

 親子の軽いやり取りに、エマニュエルが遠慮がちに声をかけた。

「あのヤスミン様。ヨハン様をお連れしました」
「は、はじめまして、キュプカー嬢! わ、わたしはカーク家嫡男(ちゃくなん)、ヨハンでありますっ」
「まぁ、ヨハン様。お会いできてうれしいですわ。あの、お体に触ってみてもよろしいですか?」
「か、からだっ!? あ、いや、どうぞ、お好きなだけっ」
「ふふ、うれしいですわ」

 興味津々と言った感じで、ヤスミンはヨハンのまわりをぐるりと一周した。吟味するように観察してから、背中の一部に手のひらを当てる。

「この筋肉、想像以上ですわ」
「ああ、これは相当毎日鍛え上げているな。カーク殿、我が近衛第一隊に入らないか?」

 なぜかキュプカーも横に並んで、ヨハンの筋肉をしげしげと眺めている。そのまま親子で筋肉談義が始まった。

 動けないままヨハンはヤスミンの姿を目で追っている。その瞳にハートマークが浮かんでいるのを認め、エマニュエルが重くため息をついた。

「ヨハン様。ヤスミン様はキュプカー侯爵家の跡取りでいらっしゃいますわ。将来は婿養子を迎えることになられるでしょう。ヨハン様はカーク家を継がれる身。不毛な恋をしている暇などございませんわよ?」
「わ、分かっている。分かっているが、キュプカー嬢……なんて美しい方なんだ……」

 小声でくぎを刺すも、ヨハンはすでにメロメロだ。ヨハンは跡取りのくせに、いまだ婚約者も決まっていない。惚れっぽい性格もここまでくると手の施しようがないと、呆れるエマニュエルだった。


 そんなこんなで訓練の見学を終え、一行は帰路につくのだった。

< 15 / 185 >

この作品をシェア

pagetop